サーキットベンディングWSに参加した

概要

16日、PEG(主催:parlor COTEF)によるサーキットペンディングのワークショップに参加しました。

 サーキットベンディングについてはTwitterでピカルミンがバズった時に知り、自分でもやろうと思ってネットで調べても抵抗の場所の調べ方や可変抵抗の取り付け方等よく分からなかったので、その手のプロの下で実際に伝授されてこようと思い今回浜松まで行きました。浜松に来るのは某楽器メーカーの2019年新卒向け技術セミナー以来です(選考落ちましたがいい会社でした)。

制作

ワークショップでは「チャイミン」という、カウンターチャイムの改造品を作りました。講師は「ピカルミン」の生みの親Kaseoさんと、スリーピースバンド「世紀マ3」シンセ担当の谷浦朋文さんです。参加者は地元のバンドマン、数学科の教員、電子工作をするギャルなどで、遠方から来たのは東京から親子一組と京都からの自分のみでした。ほとんどは電子工作の初心者なので、サーキットベンディングのイノベーターである講師のお二人が懇切丁寧に教えてくれます。

 

 サーキットベンディングの要領はだいたい次の通りです。

  1. ピッチに関係する抵抗の場所を探す
  2. 抵抗器を取り外す
  3. 代わりに可変抵抗器を取り付ける
  4. パッケージを調整する
  5. 完成

ピッチに関係する抵抗の場所を探す

まずはチャイムを分解し、主となる電子基盤を露出させます。ボタンが接するスイッチや音量調節のボリュームなど部品は他にもありますが、一番大事な基盤には小さな制御装置が黒い樹脂で塗り固められています。ここは弄ることができないので、基盤の他の金属部分を濡らした指でチャイムを鳴らしながら触っていきます。

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すると、ある部分を触ったときに音のピッチが変わる箇所があります。今回のチャイムでは基盤に「R1」と書かれていました。ここがピッチを調節している抵抗器が繋がっている箇所で、固定の抵抗値によりピッチを決定しています。サーキットベンディングではここに代わりに可変抵抗器を接続し、ピッチを自由に変更できるようにします。

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抵抗器を取り外す

場所が決まれば、当該箇所の抵抗器を取り外します。ここではんだごてが登場します、基盤に溶接されたはんだを溶かし、抵抗器の部品を除去します。今回のチャイムではひょうたん型のよくある抵抗器ではなく、ごく小さいチップみたいな部品だったので、溶かしたはんだごと除去しました。すると元々繋がっていた二つの端子が現れます。

代わりに可変抵抗器を取り付ける

可変抵抗器を取り付けるため、まずはその端子にリード線2本をそれぞれ接着します。ビニールの外装を剥いた導線部分に先にはんだを染み込ませると、端子への接着がしやすいです。このリード線2本を可変抵抗器に接続すれば、基本的な装置としてはほとんど完成です。ツマミを回すとピッチが変わります。

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今回はさらに可変センサーからリード線を伸ばしてCdSセンサーを接続したり、導線をいろいろ伸ばしたりして、参加者たちは面白い音が出る端子を探していました。その途中で私は謎のアラート音や「エリーゼのために」を鳴らしてしまい(当然このような音楽はカウンターチャイムの仕様にはない)、裏ステージみたいだと皆で囃し立てたのですが、この時点ではそれがどこなのかわかりませんでした。

パッケージを調整する

実装した可変抵抗器やセンサーをチャイムのガワに収めるために、ガワにドリルで穴を開けてパッケージを調整していきます。このチャイムは上部に空間があるので、可変抵抗器が入る位置にガワに穴を開け、中から可変抵抗器などを通してビスやグルーガンで固定します。そのままではスイッチの部品が邪魔をするので、はさみやニッパーで邪魔な部分は切除しました。ガワにラッカーで色を塗ることもできます。

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他の参加者は抵抗の部分からリード線を生やしたりスイッチの部分を改造したりして、触ったり手を近づけるとピッチが極端に変わるテルミンの変種みたいなものを作っていました。自分はさっき流れた「エリーゼのために」が忘れられず、回路をいろいろ短絡させて変な音が鳴る場所がないか探索していたところ、とうとう一定の回数ショートすると音楽が流れる箇所を特定しました。スイッチの部品がなかったので、導線同士を接触させるとそれが流れるように2本のリード線を生やしました。塗装は白と黒でおにぎりみたいにしました。自分だけガワの文字が浮き出ていたので、バージョン違いで一部の製品だけ違う制御装置が入っていたのかもしれません。

完成

完成ではないのですがとりあえずガワを装着して元通りにします。これでチャイミンができました。各人が自分の作ったチャイミンを披露実演します。翌日ライブでワークショップ参加者の出演パートがあり、来られる参加者はぜひ来てくださいと呼びかけがあります。自分は帰りの新幹線きっぷを翌日で取っていたので、浜松の街に戻って食事をしたあとカプセルホテルで寝ました

ライブ

 17日のライブは演奏者3人とワークショップ参加者一群による四本立てです。

 まずオシロスコッティさんが大量の導線を生やした装置を操り、単調な電子音から複雑な音楽を形成していきます。途中から小気味良いビートも伴い盛り上がってきた。

 その次が我々の演奏で、打ち合わせ前の時点で「エリーゼのために」をトリで流すことを嘱望されており、やるっきゃないなあという気持ちでライブに臨みます。ギャルの人がルーズソックスとスピーカーを接続して人間楽器になっていた。十分間、各人がさんざん狂ったチャイム音を鳴らした後、自分がエリーゼを流して最後にチャイムを鳴らし終了。会場の皆が楽しめたので良かったです。

それから谷浦朋文さんのサーキットベンディングされた電子ギターやビートボックスの演奏を聞く。壊れそうで壊れない少し壊れている、いやだいぶ壊れた電子楽器の音が会場に響き渡ります。そして大量に並べられたゲームボーイの群が発光し、ノイズを奏でる光景は圧巻でした。

この後ギャルの人と喋ったんですが、ギャル電というユニットをやっており、その所属レーベルがluteというところでなんかロゴ見たことあるなと思ったら、三ヶ月前に曲めっちゃいいとツイートしていた韓国のヒップホップレーベル・Hi-Lite Recordsと業務提携した企業だった。Twitterもフォロワー5000人近くおり、かなり有名な人だったっぽい。

twitter.com

そして最後はKaseoさんのパフォーマンスで、選考落ちたヤマハシンセサイザー任天堂ファミコン、そしてピカチュウが餌食になります。特に笑えたのはファミコンエレキギターに見立てて「ヨッシーのたまご」のカセットが挿されたファミコンで、メチャクチャな画面と音が流れるので最高でした。ピカルミンの大合奏は狂気の渦であり、バチバチ鳴る個体もいて見ごたえがありました。ライブ終了後、二体だけ販売があり、買える値段だったので手に入れたかったのですが、他の来場者に先に貰われていきました。

システムをバグらせること

思い返せば小学生の頃から、ゲームをバグらせて遊んでいた。特にお気に入りはポケットモンスター赤版で、2ちゃんねるの裏技スレまとめWikiに自分の調査報告が載っていたこともある。スーパー正男なんかでも遊んだが、中学生の時には改造マリオを制作し、ニコニコ動画にプレイ動画をアップした。大学生になってからは淫夢の音MADとか作って遊んだりしていたこともある。

思うに自分は一からものを作り上げるのはそれほど得意ではなく、元々はそれ自体完成されたものの穴を突いて改変を加えるのが好きらしい。真っ白な画用紙に絵を描けと言われてもなかなか描き出せないが、机の木の文様を見ていると描きたい意欲が湧いてくるようなものだ。電子工作の設計図の代わりに、どこまで分解しても怒られないメカのおもちゃがあったら。あるいは、プログラミングの教科書の代わりに、達人プログラマーの作ったプログラムのコードをいじる機会があったら、と今になって思う。

サーキットベンディングは電子工作のよい教材で、ここから電子楽器の構造や電子回路の仕組みを知るきっかけになると思う。今回はあくまで回路の表面をいじっただけなので、実際にどのくらい知識があればどこまで可能なのか私にはわからないが、今日のライブを見て、システムをバグらせハックするだけでも十分面白いし見世物になるのだなあと感じた。DJもこれに近いものがあるし、色々な要素を取り入れて面白いものを作っていきたい。

かくして自分もサーキットベンディングのイノベーターとなったので、自分も何か作ってみたいという人は私silloiまでお声かけください。サーキットベンディング、京都でもぜひやりましょう。