京都大学サマーデザインスクールに参加したら実質上のインターンだった

まとめ

京都大学サマーデザインスクール2018に参加しました。フレームワークや発想手法を使ったアイデア立案をしたりできると期待していて、実際それはある程度達成できたんですが、テーマの制約がシビアだったので自由な発想の余地がそれほどなく、そういう意味ではあまり面白くなかったです。言い方を換えれば企業のインターンシップみたいな内容だったので、業界研究としていい勉強にはなりました。

参加する前

京都大学サマーデザインスクール(以下sds)は数年前からポスターを見るたび参加してみたいと思っていて、でも申込しようか迷っていると定員がすぐに埋まって締め切られてしまうといった様子だったのだけど、大学にいるのも今年が最後と思って残りの一枠に申込したところ、予算が決まっているプログラムとしてはこちらも今年が最後だったとのこと。

残りの一枠というのは鉄道車両のメンテナンスというキラキラ大学生とはかけ離れたテーマで、チームメンバーになった学生も工学部や工学研究科の所属だった。自分はアルバイトでWebサービスの運営管理に近いことをやっているのでソフトに限らずハードの保守やメンテナンスにも関心があったことと、デザイン手法を使って新しいものを作り上げようといった趣旨ではなくフレームワークを利用して問題解決しようという目的がはっきりしたテーマだったことから、こちらを選んだのは妥当な選択だった。車両所見学ができるのも自分にとってアピールポイントだった。

一日目

初日は午前中に問題解決手法についてのちょっとしたレクチャーがあり、午後からは吹田に移動して社員の方と車両所を見学した。手法はTRIZ(トリーズ)というもので、ソ連の工学者が過去の発明や開発の事例を調査分類して、一連の解決手法として構成したもの。なかでも「40の発明原理」というのがいかにも工学然としていて、また参考書籍がこれらをうまくデザインしていて興味を惹かれた。

トリーズ(TRIZ)の発明原理40
 

 午後からの車両所見学のために、吹田まで電車で移動する。鉄道会社はインターンとかでも交通費出してくれるといったことは基本ないらしく、我々の移動費用も自費なら社員の人も自腹で切符を買っていた。最寄りの駅に到着し、しばらく線路沿いに歩いたら大きな敷地の車両所がある。

車両所ではブルーカラーの服装をした作業員が所内の説明をしてくれたり、作業風景を見せてくれたりした。僕は電車が特に好きというわけではないが、工場は好きなので巨大な構造物を見てテンションが上がっていた。作業は機械化ができないために作業員が人力でやっており大変そうだった。所内は案の定男しかいない世界だと思っていたら帰り際に職員室の入り口で美人を見かけたので趣を感じた。

二日目

二日目は午前中にとりあえず付箋に現状の問題点やその対策などを書き出して整理するという作業をやった。似たような作業をどこもやっていたがこれはKJ法という理解で会っていると思っていて、一度ちゃんとやる必要があると感じていたので今回これができて良かった。一般に人は個々の相関関係を見つけ出すといった操作は積極的にするけれども、それらをまとめ上げた上位カテゴリに名前をつけるということはあんまりできないと思っていて、自分が率先してそれらに名前を与えていたら他のメンバーが語りの中にその名前を早速採用するので面白かった。考えに取っ手をつけるとはまさしくこのことだなと思った。

 

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さて、そうしてひとまずはまとまりを見せた概念図を午後からフレームワークである因果関係の図式に落としこもうとしたところで、新たに社員がもう一人来て概念図の要素にケチをつけていきメチャクチャになった。一日見学しただけの我々より現場に詳しいのは分かるしツッコミどころが多いのも理解できるが、ある程度方向づけられていた議論に水を差されたのみならず午前中の成果が役に立たないような形でまた同じ作業をやり直す羽目になったという気持ちが生まれ、内心憤りを感じた。だいいち学生主体のイベントなのだからそこは距離を置いていてほしいし、企業でもこういう風に上の立場の者が横槍を入れてくるという形でプロセスがダメになるということは往往にしてあるのだろうなと思われた。対してもう一人の社員の方は適度な距離を保っており好印象だった。

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時間は掛かったがとりあえず因果関係の図式はそれなりに形になり、それらから導き出される発想原理に従っていくつかのアイデアが出された。それらの評価までやって、資料は翌日作ろうということになった。図表資料のクオリティを他のメンバーに期待できないと思ったので夜のうちにPowerPointで作成しようかとも思ったが、読書会から帰ってくると疲れてそのまま寝てしまった。

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三日目

最終日は午前中のうちにポスター発表の準備をして、午後にその発表会をするというスケジュールだった。資料作成はいちおう役割分担するけどそれほどうまくいくはずもなく、デザインも統一する余裕がなかったのはもちろんのこと作業の早いメンバーが独自規格を採用しだしたりして案の定まとまりのないものになった(洗い出しの時にも規格が統一されていないことが問題の一要因という話をしていたのでは)。とにかく時間までに模造紙に貼るスライドを印刷し、それなりに配置して準備が終わった。

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口頭での発表は詳しくはポスターを見よって感じで適当に流して、ポスター発表のセッションでは前半は鉄道オタクのメンバーがいい感じに回してくれたらしい。その間自分は他のポスターを見て回ったり知人友人と会話したりした。実は一日目には桂行きのバスの中で中国・西安への海外派遣で一緒だった参加者の友人と、二日目にはその晩の読書会で一緒の知人と、三日目には大学院に入学した際の生協イベント後に教授のもと一緒に飲んだ知人などと再会するといったイベントがあり、改めて人間の関心が似通うことの奇妙さを感じていた。テーマは協賛企業の色合いが強く出ていて、電通の「たしなみ」や「おもてなし」に対し博報堂が「恋に落ちる」ことをテーマにしていたので、「たしなみって女子高や女子大の規範的な教育内容として生まれた性差別的な概念だということは知っていますか」みたいなイケズなコメントをしたりしていた。概してやはり実現可能性はともかくアイデアというかデザインを提案していこうみたいなスタンスの発表が多く、ただもう現実に即した解決法を示した我々のポスター発表は際立っていたと思う。三菱電機の人工太陽がエネルギーの根源となった世界みたいなのがSFっぽくて面白かった。後半は替わって発表を担当したけど大勢に説明するよりは一人二人と対話するといった感じでできて良かった。コーヒーブレイクに阿闍梨餅が出てきて嬉しかったが、コーヒーを飲みすぎて気持ち悪くなった。

それが終わるとリフレクションの時間があり、いろいろと思うところを書いたが意見共有の機会はなかった。そのあと結果発表があり三位以上のテーマが発表され、いずれも自分は関心なくて聞いていない発表のものだった。一位になったのは不便益の研究で有名な教授のところで出来レースだなと思った。

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閉会の後には懇親会があり、酒と料理を口にすることができる。ちゃんとした洋食が出てくるなあと思ったら数年前に閉店し十月に再開するという「まどい」による出店だった。あんまり食べたつもりも飲んだつもりもないが、いろいろと疲れが溜まっていたのか途中から食欲がなくなってきた。発表が聞けなかったメンバーに関心あるテーマの参加学生を引き合わせたりしていると、その者同士が実は知り合いだったみたいな出来事があり世間は狭いなと思った。

帰りは連絡バスが途絶えていたため、電車とバスを乗り継いで帰った。

振り返り

サマーデザインスクールという名前がついているが、少なくとも実施者や協賛者として企業がそれぞれついているテーマに関しては、デザイン手法といってもせいぜい発想法とかフレームワーク使ったりするくらいで、あんまりデザイン(設計)みたいなところまで十分にできているチームは多くなかった気がする。せいぜい自分のチームのようにいくつか打ち手の立案をするか、問題の整理どまりではなかったのだろうか。それは三日間といえども準備時間を除けば実質二日間で現状分析から概念整理して解決策をパッケージとしてまとめるのがいかに難しいかということでもある。自分は最初からそうだと思っていたが結果的にはプレゼンテーションが上手いチームが成果を収めるということになるのである。

ところで二日目に読書会が一緒の知人とバスを待っている間しゃべっていたのだが、僕はチームワークしんどくて一人で作業やった方がずっといいみたいな話をすると、自分はチームワークをするのが楽しいみたいなことを言っていて、そっちが一般的な感想なのだろうかなと思った。多少ともチームをまとめようとするなら、それがいかにコストのかかることか理解されると思うのだけど。またチームメンバーの院生の彼が社員の人に詰められていて、かわいそうだと思って休憩時間に労うような声をかけたところ、自分の考えがまだまだ及ばないとかめっちゃ謙虚なこと言ってて真面目だなあと思った。そりゃまあ工学徒は真面目でないととてもじゃないがやってられないよな。

そんな感じで、手を動かして問題を考えたり、人間としゃべったりすることができ田という点では参加して良かったなと思います。でも今の自分にはもっとやるべきことがあったよな、とかえって奮起せられました。